ひとりごと

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新作歌舞伎 刀剣乱舞『月刀剣縁桐』 感想

7月5日16時半開演の回、仕事を早退して観てきました。

刀ステFC抽選を応募し忘れて観に行けないかもと思ったけれど、リセールチケットが出てたので普通にチケ取れました。リセールシステム本当にありがたい。

【総評】歌舞伎初心者の舞台オタクでも大満足

正直言って期待以上のクオリティ。もし次回作があるなら、絶対に観に行きたい!と思う。

歌舞伎の伝統的な時代物・様式美・世界観と刀剣乱舞の自由度の高いストーリー性が綺麗に融合していて、新しいエンタテイメント作品として完成されていた。日本の刀剣を題材としている刀剣乱舞と日本の伝統芸能の親和性が高いのはわかるけれど、ここまでお互いの魅力と世界観を守りながらも面白さを存分に魅せることができるものなのか、と感動した。

歌舞伎って話している言葉が難しくてストーリーすら理解できないかもと思っていたけれど、イヤホンガイド*1で登場人物、場面や歌舞伎ならではの演出などの説明を聞きながら観劇したらすんなりと世界観に入り込むことができて楽しめた。

歌舞伎ならでは(歌舞伎でしかできない)の表現や舞台の使い方などを存分に味わうことができたのも面白かったポイント。ストレートプレイやミュージカルの舞台を色々観てきたからこそ、「普段観られない特別なものを観た」という新鮮さがより興奮を助長した気がする。

刀剣乱舞のメディアミックス作品お約束の「元主を見殺しにしなければならない刀剣の苦悩や葛藤」が今作でもしっかり描かれていた。

足利義輝三日月宗近が主軸となる話は、舞台刀剣乱舞(刀ステ) 悲伝 結いの目の不如帰でも描かれている。刀ステ悲伝はシリーズ作品の流れを汲んだ上でのお話だったので、刀ステ本丸での三日月宗近という特別な刀にスポットが当てられていた。対して歌舞伎本丸*2では、どちらかというと足利義輝や松永家にスポットが当てられたお話だった。

歴史上の人物を描くのは歌舞伎の得意技だろうから、義輝とその周辺人物に関する深掘りや魅せ方は納得のクオリティ。ここは本格的な歌舞伎の要素を刀剣乱舞ファンに知ってもらおうという意図が強く感じられた。ちなみに、義輝の妹・紅梅姫*3三日月宗近に恋心を抱く、というオリジナルシナリオが個人的には気に入ってる。人間と刀剣の恋愛絡みのネタはほとんど扱われてこなかったので、夢女としての血が騒いだ。ありがとう歌舞伎本丸。

新作歌舞伎というジャンルがどういうものなのかを、今作を通して知ることができたのも良かったと思っている。チャレンジ性が強いジャンルであるからこそ、伝統の歌舞伎だけでなく現代の舞台として一定以上のレベルを求められているだろう。新作歌舞伎に携わる演者や製作陣の方々の覚悟を想像するだけでも楽しめる。ついこの間までFF10歌舞伎も上演されていたし、今後もゲーム作品とのコラボ歌舞伎が増えていくのかと思うと楽しみで仕方ない。

kabuki-toukenranbu.jp

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以下、備忘を兼ねた細かい感想(ネタバレ込み)

 

【序盤】

まずは刀剣男士の顕現シーン。初っ端から私が驚かされたのは、刀工・三条宗近が三日月宗近を鍛刀するシーンから始まったこと。「あ、この舞台すごいことになりそう」と確信した瞬間だった。

そもそも平安時代の刀剣はどのように作られたのか、という演出。決められた作法、儀式の手順に則って作られていく過程をしっかり時間をとって演じられた。日本の伝統芸能を重んじる歌舞伎の舞台上で表現されたことに深い意図を感じた。同時進行のイヤホンガイドで、作法の説明などもされたのでとても勉強になった。

その後、刀剣男士が登場。

現代の舞台のように*4各人にスポットライトが当てられて、原作の口上に歌舞伎の要素が加えられたオリジナル版の台詞だった。ビジュアルはポスターやパンフレットで見ているはずなのに、こうして目の前に刀剣男士が現れる瞬間というのはいつ何回見ても興奮と感動を覚える。

歌舞伎アレンジの衣装デザインや使用している布の高級感、そして歌舞伎俳優さんたちの体躯がキャラクターの重厚感を増し増しにしていて、いつも見ている若手俳優刀剣男士たちからは感じにくい神々しさを感じた。というか浴びた。

三日月宗近・小狐丸・小烏丸・髭切・膝丸という雅で華やかな太刀キャラの中に同田貫正国という無骨な打刀キャラが1人加わっているのも面白いというか、他メンバーとのギャップで同田貫のかっこよさが際立っていたように思う。同田貫はどの本丸にいても、立ち位置がぶれなくて本当にかっこいい。毎回惚れ直す。

顕現の前に、歌舞伎本丸の審神者とこんのすけモチーフの従者たちの会話があったのを忘れていた。

歌舞伎本丸では審神者が音声のみで出演。音声は中村獅童。いやいやいや、こんな審神者、存在感強すぎる。この本丸絶対強い。ムキムキで立派な髭を生やした頑健な審神者を妄想してしまって笑ってしまった。

こんのすけモチーフの従者さんは、狐火モチーフの柄があしらわれた衣装。靴が黄色になっているのも可愛かった。ちなみにこのこんのすけ従者さんたちは開演前に客席降りして、注意事項アナウンス前説をやってくれた。

 

【中盤】

中盤は正統派な歌舞伎のターン。主に足利義輝、松永久直、松永弾正と異界の存在がメイン。異界の存在に呪われ操られ、病を患ったり暴君へと変えられてしまう義輝と、それを止めようとする松永家が描かれる。

ここで歌舞伎ならではの感情表現の手法に気付く。歌舞伎役者は顔を白塗りにしていて、表情の細かい変化はわからない。その代わりに見得だけじゃなく、足の運び方・歩き方、使う楽器や大道具にも特徴を持たせているんだと。松永久直が三日月宗近に「松永弾正が足利義輝を討つのが歴史の運命」と告げられて、重い覚悟と決心を抱えて花道から退場するシーンが特に印象的だった。重い足取りだけれど力強さも感じられて、大股で、目の前を見据えて歩く姿はとてもカッコよかった。

作法が決まっているから、この音楽が流れるということは…この垂れ幕が降りたということは…と、観客も話の起承転結を理解しやすくなっているんだなと関心した。

あと宮中で刀剣男士たちが舞を披露するシーンも印象的。各刀剣男士の扇子のデザインも綺麗だったし、彼らが舞い踊る姿が見れたのが楽しかった。オタクを喜ばせるのが上手だなと思う演出がいくつもあって、心の中で拍手を常に送っている自分がいた。

 

【終盤】

ここから刀剣男士と異界の存在、そして足利義輝三日月宗近の戦いが描かれて熱い展開になる。異界の存在や封印されていた妖と戦うシーンでは主に小烏丸と髭膝兄弟が活躍。

髭膝は妖を斬る刀として有名だから特別感を表したかったようで、右腕側の着物を一枚脱いで紋様が描かれた着物の状態で戦闘。時間遡行軍と戦う時は通常バージョンの衣装だったので、対妖・異形用の特別な衣装チェンジだったと思う。芸が細かい。そういうの好きです。

小烏丸は妖を封印する役目。八咫烏を冠する我のなんとか〜と言っていた。見守り役に徹する役割が多い小烏丸の見せ場を作ってくれてありがとう。

そして、足利義輝三日月宗近の戦い。

階段になっている大道具には、義輝の愛刀たちが刺さっている状態。きたきた、義輝様最期のお約束演出。刀剣の収集家だった義輝は、最期の戦いで刀を次から次へと入れ替えて戦ったという逸話がある。だから地面にたくさんの刀が突き刺さった場面演出がお約束になってる。何度見ても厨二感満載で好き。歌舞伎でも同じことをやるんだなと面白く感じた。

アンサンブルの方々が次々と義輝に斬り伏せられているシーン。アクロバティックな演出や、これ滝沢歌舞伎*5で観たことある!という歌舞伎の演出もあって興奮した。滝沢歌舞伎を観るだけではわからなかった歌舞伎独自の演技の説明をイヤホンガイドで聞けてよかった。

呪いから解き放たれて正気に戻った義輝だけれど、彼はこの永禄の変で死ななければならない。義輝を殺す役目は三日月宗近に託される。激しい攻防の末、三日月が義輝にとどめを刺す。凛とした姿で立ち向かう三日月だけれど、やっぱり最後の一撃はとても苦しそうに見えた。元主を斬る刀剣男士の姿は、何度見ても切なくて感動してしまう。

最期に義輝が岩壁から奈落へと、背中から飛び降りて幕引き。

尾上右近尾上松也、両名迫真の演技が最高だった。

 

そしてエピローグの後のエンディング。刀剣男士一人ひとりの決め台詞の後、現れたのは各刀剣男士を模した刀身。

その演出は素晴らしすぎる、ずるい。最後まで抜かりない演出に脱帽。

最初から最後まで、余すところなく楽しめるいい舞台だったと感動した。

 

 

*1:音声同時解説のサービス。絶対レンタルした方がいい。歌舞伎独特の約束事や演出、なじみの薄い言葉や習慣、大道具小道具楽器などの説明も全部してくれる。当日レンタル可能で単品だと800円だった。

*2:刀剣乱舞では基本的に「これはとある本丸の話」と、各作品ごとに別軸の世界線のお話ですよと区別しているのが慣習。舞台刀剣乱舞なら刀ステ本丸というようにファンの間では通称名として使われている。それを知っていたようで、尾上松也さんがカーテンコールで「歌舞伎本丸もよろしくお願いします」と明言していた。

*3:歌舞伎に登場するお姫様役を衣装の色から「赤姫」と呼ぶ。美しく華やかなお姫様の姿の象徴であり、激しい恋に燃える一途な情熱を表現している。という説明を同時進行で聞いて私は心の中で大興奮してしまった。

*4:歌舞伎は基本的にずっと照明が明るいイメージがあったので、舞台が暗転してスポットライトを使う演出をやっていいんだ、と驚いた。

*5:作・構成・総合演出ジャニー喜多川の和に特化した舞台。ジャニーズ界隈では有名な舞台で、私はSnowMan主演verをDVDで観ている。