ひとりごと

趣味に関する感想や日記など

木下龍也著『あなたのための短歌集』を読んで

木下さんのことを知ったきっかけは情熱大陸

まさしくこの『あなたのための短歌集』の元となった企画「あなたのための短歌一首」のリアルイベントに密着していた映像が流れていました。

依頼者のために作った短歌はあくまで木下さんの個人販売で、推敲した履歴も完成した短歌も残さず、公開もしない。というスタンスの企画ですが、その依頼者に短歌を提供していただいて本が作られたそうです。この時点で興味深い内容だなと、当時から思っていました。

番組の後半には谷川俊太郎先生との対談もあり、かなり緊張されている様子や、歌人として今後どうすればよいかという悩みを打ち明けるシーンもあり、未知の存在であった歌人も同じ1人の人間なんだなと感じたのをよく覚えています。

 

短歌のことよくわからない人にこそおすすめしたい一冊

 

本当に、まさか短歌を読んで泣く日がくるなんて思いもしませんでした。

私は共感力が高いタイプだと自負しているので、人によっては大げさだと言われてしまうかもしれません。ですが、短歌の一つひとつから感じるメッセージ性と言葉の繊細さに感動するはず。この歌集のなかに心に響く短歌が、誰にでも一つはあるんじゃないかと思います。

前述もしましたが、特徴的なのは依頼者のお題をもとに作られた短歌であること。

本の構成として、見開きの右側にお題、左側に短歌となっているのが良い。普通は短歌だけが記載されていると思うんですが、こうやってお題が明示されていることでより鮮明に情景をイメージできて、言葉の深みを味わうことができました。

お題は「犬との散歩が楽しくなる短歌をお願いします」など一文におさまるシンプルなものもあれば、依頼者自身のエピソードが綴られているものも多く、家族の死や深い悩みにまつわるお題もありました。

お題だけをまず読んで「この難しいお題にどう答えるんだろう?」と自分でもほんの一瞬思案して、左側の短歌を見る。すると予想外のワードがまず飛び込んできたりして面白い。一首読み切ってから依頼者の気持ちになって反芻するうちに、じわじわと心の奥に言葉が染み込んでいく。そして涙が出てくる。そんなことを繰り返してあっという間に100首が終わってしまいました。

今まで短歌をまともに読んだことが無くて、正直良し悪しもわからない。よくわからないけどなんか泣けるし、クスッと笑えるものもあるし、エモいなと感じるものもある。自分が想像していた古典的な短歌とは異なる、現代短歌というジャンルに魅入られてしまいました。

 

どれも素敵な短歌ですが、今の気分でお気に入りの短歌をひとつだけ紹介しておきます。

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私は他者から何かを要望されたときに断るのがとても苦手で、自分が本当は納得していないことでも、受け入れてしまうことが多いです。でも、いざ実行するときにはとても後悔して、半べそをかきながら臨むことが多々あります。自分にとっても相手にとっても不幸な時間をつくっているなと思います。「嫌われたくない」「いい人でありたい」といった雑念が消えて、自分の意思を伝えられるようになるための短歌がほしいです。

 

ケバブ屋のようにほほえみ望まれるままにわたしを削ぎ取るわたし